中国(上海)の労働法・社会保険・税務
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中国(上海)の労働法
中国(上海)現地の労働法、労働契約法に基づく労働契約、有期労働契約、労働紛争、試用期間、休日、休暇、時間外労働、休日労働、有給休暇、出産休暇、解雇、経済補償金についてご説明いたします。
中国の市場経済化に伴い、国は国有企業として身分を保証することに危機感をおぼえ、1994年民間企業の設立を自由化しました。その為に中国の労働法の歴史は浅く、1995年に労働法が制定。実質的な労働契約については2008年の労働契約法において確立されました。
中国の労働法の特徴及び留意点は下記の通りです。
期間雇用者が前提中国の労働契約は、終身雇用を前提としておらず固定期間契約が前提です。さらに、◆2回更新を行うと無期雇用となるために長期で同じ企業につとめるという概念が労使共にない。
特徴・背景 | |
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特徴・背景 | もともとは、国営企業であったために国民は国から指定された企業で一生、職務を遂行していた。その結果◆職務怠慢◆職務不適合という状況が生まれた。 1992年以降、組合法、1994年労働法を制定し、自らキャリアを選択できる制度へとかじをきった。 |
労使紛争の急増 | 労使紛争の数は1994年以降12倍にも達している。背景は1つではないが大きな理由として、労働者が訴えやすい仕組みの構築がある。 ◆無償◆企業側が立証責任を負う |
① 労働契約書は極めて重要
1ヶ月以内に締結しないと罰則あり。さらには1年以内に締結しない場合は無期雇用となる。② 省により運用が違う
例えば、期間雇用者の契約回数上限2回のカウントは省によって違う。③ 就業規則を作成しないと罰則
開業後、半年以内に就業規則を労働行政部門に届出しないと罰則がある。
2008年より、中国における労働争議調停仲裁法が施行され、以下の内容が規定されました。
項目 | 内容 |
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受理範囲 | ① 労働関係の確認に起因して発生した紛争 ② 労働契約の締結・履行・変更・解除・終了に起因して発生した紛争 ③ 除名、解雇及び辞職、離職に起因して発生した紛争 ④ 労働時間、休憩・休暇、社会保険、福利、研修及び労働保護に起因して発生した紛争 ⑤ 給与、労災医療費、経済的補償、賠償金等に起因して発生した紛争 ⑥ その他法律、法規に規定される労働紛争 |
労働仲裁の費用 | 無償 |
立証責任 | ・紛争事項に関する証拠を使用者が保管・管理する場合、使用者はその証拠を提出しなければならない(第6条) ・使用者によって保管・管理されているために、労働者が仲裁で争われている時効に関する証拠を提出するこができない場合、仲裁廷が使用者に対して、期限を指定して証拠の提出を要求することができる。この場合、期限内に使用者が証拠を提出しない場合、使用者の不利な結果を引き受けなければならない |
時効 | 仲裁申立の時効期間は、本人が認識してから1年 |
労働仲裁に至るまでのステップとしては、下記の通りであり、本労働仲裁を経ないと、人民法院による訴訟を提起できない仕組みとなっています。
【STEP1】 労使協議による和解
【STEP2】 調停組織による調停
【STEP3】 労働紛争仲裁委員会による仲裁
【STEP4】 人民法院による訴訟
本労働仲裁制度は、①制度利用が無償となっていること、②企業側に立証責任が課されていることがあり、従業員側が利用しやすい制度となっています。
特に②については、日頃から従業員との労働関係の書類、エビデンスを揃えておくことを意識しリスクの軽減を図る必要があります。
中国の労働契約法第10条では、会社と従業員は「書面による労働契約」を締結しなければならないと定められています。
なお、締結されていない場合には会社側に以下の罰則が設けられています。
① 勤務開始日から1ヶ月を超え1年未満の時点で書面契約を締結していない場合、当該労働者に対し毎月2倍の賃金を支払わなければならない。
② 勤務開始日から満1年が経っても書面契約を締結していない場合、労働者との間で期間の定めのない労働契約を締結したものとみなされる。
また、労働契約で盛り込まなければならない事項についても定めがあります。
労働契約法 第17条
労働契約は、次に掲げる条項を具備しなければならない。
(1) 雇用単位の名称、住所及び法定代表者又は主たる責任者
(2) 労働者の氏名、住所及び住民身分証その他の有効な身分証書の番号
(3) 労働契約の期間
(4) 業務内容及び業務場所
(5) 業務時間及び休息、休暇
(6) 給与
(7) 社会保険
(8) 労働保険、労働条件及び職業上の危害の防護
(9) 法律及び法規により労働契約に組み入れるべき旨が規定されるその他の事項
中国には「身分証制度」というものがあります。 これは、国が中国国民個人に対し統一的に交付する法定の身分証書となります。本身分証には 氏名、性別、民族、生年月日、戸籍登記所在地住所、18ケタの身分証番号、本人写真、証書の有効期間及び発行機関が含まれます。
会社は、従業員を採用する際、この身分証の写しを呈示するよう求職者に要求し、求職者の身分情報を確認することができます。 また、その身分情報が虚偽ではないか、下記の国の身分確認システムを通じて確認することができます。
中国では一定の事由(該当事由)がある場合で労働者が申し入れ又は同意した場合、使用者は労働者と期間の定めのない労働契約を締結しなければならないとされています。
※労働者自らが有期雇用を希望する場合を除く
① 労働者の当該使用者における勤続年数が満10年となる場合
② 使用者が初めて労働契約制度を実施し、又は国有企業が制度改革を行い新たに労働契約を締結する場合で、当該使用者における労働者の勤続年数が満10年となり、かつ法定年齢まで10年未満である場合
③期間の定めのある労働契約を2回締結し、かつ労働者には労働契約法第39条(労働者の責めに帰すべき事由)、第40条第1号、第2号(業務不適格事由)に規定する状況がなく、労働契約を更新する場合
③については、考え方に地方で差があるようですが、上海においては、3回目の契約更新時に、無期契約の締結義務が発生します。
回数での縛りとなっているため、1回の契約が10年であっても問題ありません。
中国では法律で試用期間の上限が定められていることに留意が必要です。労働契約法第19条では労働契約期間により設定できる試用期間の上限が定められています。また同じく労契法20条では試用期間中の賃金についても定めがあります。
労契法19条では、「同一の雇用単位と同一の労働者とは、1回に限り試用期間を約定することができる。」と記載があり、契約更新時やいったん離職して再度就職した労働者についても設定できませんので注意が必要です。
労働契約期間 | 試用期間 |
---|---|
3ヶ月以上1年未満 | 1ヶ月以内 |
1年以上3年未満 | 2ヶ月以内 |
3年以上又は無期限契約 | 6ヶ月以内 |
① 組織内の同職位の最低ランクの賃金の80%を下回ってはいけない② 労働契約で約束した賃金の80%を下回ってはいけない③ 企業所在地の最低賃金より低くしてはいけない
中国の法定労働時間は1日8時間、1週40時間となっており日本と同じです。しかし大きな違いは、時間外労働の上限が中国では厳密に1日1時間、特別な場合でも1日3時間、1ヶ月36時間と定められている点です。そのため中国には深夜時間外労働という概念もありません。また割増賃金率も150%と日本の基準よりも高くなっている点に留意が必要です。
中国 | 日本 | |
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内容 | 1日:8時間を超えた場合 1週:40時間を超えた場合 |
|
時間外労働上限 | 原則として1日1時間 特別な事情がある場合でも1日3時間、1ヶ月36時間が限度。 |
36協定の締結により、労働基準法の定めにかかわらず労働時間の制限を超えて労働させ、休日に労働させても法違反とならない。ただし、時間外労働の上限あり。 ①1か月の上限は、時間外及び休日労働をあわせて100時間未満 ②2か月ないし6か月のそれぞれの期間における時間外及び休日労働の1か月平均は80時間以内 ③1年の時間外労働は720時間以内 ④時間外労働が45時間を超える回数は月6回以内 |
割増賃金率 | 賃金の150% | 125%以上 |
中国では法定休日は国が定めています。日数は11日あります。
法定休日に従業員が出勤する場合,企業は賃金の300%を支払わなければなりません。
実務的には、政府によってこの祝日に、日曜日/土曜日を振り替えによって繋げて、3連休や7連休が作られます。
このため、政府の公式発表があるまで翌年のカレンダーは判明しません。例年、この発表は12月初旬に行われます。
名称 | 日数 | 休日 |
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元日 | 1日 | 1月1日 |
春節 | 3日 (7連休) | 旧暦大晦日、旧暦1月1日、旧暦1月2日 |
清明節 | 1日 (3連休) | 旧暦清明節当日 |
労働節 | 1日 (3連休) | 5月1日(メーデー) |
端午節 | 1日 (3連休) | 旧暦午節当日 |
中秋節 | 1日 (3連休) | 旧暦中秋節当日 |
国慶節 | 3日 (7連休) | 10月1日、2日、3日(建国記念日) |
中国 | 日本 | |
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内容 | 法律によりあらかじめ定められた11日 (左表参照) | 毎週少なくとも1回、4週間を通じ4日以上の休日 |
割増賃金率 | 賃金の300% | 135%以上 |
婦女節 (女性のみ) | 半日 | 3月8日 |
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青年節 (14歳以上) | 半日 | 5月4日 |
中国の労働法38条では毎週少なくとも1回の休日を与えなくてはならないとしています。これが法定外休日に当たりますが、労働法36条で労働時間を1日8時間、1週40時間となっており、基本的には土曜、日曜を法定外休日とする企業が多くなっています。
中国勤務日数:365日 – 11日(法定休日) – 104日
(法定外休日(土日数)) = 250日
日本勤務日数:365日 – 14日(国民の祝日)
– 104日(土日数) = 247日
※日本では、別途夏休み、冬休みを計6日間程度付与することが慣習的
中国に赴任すると3日〜10日(夏休み等入れる場合)少なくなる計算となる!
中国 | 日本 | |
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内容 | (実務上)土曜&日曜 (法律)毎週少なくとも1回の休日/1週40時間・1日8時間 |
(実務上)土曜or日曜 (法律)毎週少なくとも1回、4週間を通じ4日以上の休日、1週40時間・1日8時間 |
割増賃金率 | いずれか ① 代休を与える ② 賃金の200%を支払う |
125%以上 |
従業員年次有給休暇条例により中国の年次有給休暇が定められています。日本との大きな違いは、他社での勤務年数も通算し、累計勤務年数で付与日数が決まることです。また、中国では年休権は、1年単位で繰り越すことが可能です。(2年の消滅時効)
消化できなかった年休日数分について賃金の300%を支払わなければなりません。(計算時は200%なので注意してください)
中国 | 日本 | |||||||||||||||||||||||
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対象者 | 1年以上連続して勤務する労働者 | 6ヶ月継続勤務し、8割以上の出勤率のある労働者 | ||||||||||||||||||||||
内容 |
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賃金 | 通常の労働時間と同等の金額 | 平均賃金、通常の賃金、標準報酬日額のいずれか | ||||||||||||||||||||||
勤務年数を確かめるためには、実務上 ①労働手帳・②養老年金の累計納付額書類の2つにより確認を行います。 |
中国には法令上下記のようなさまざまな休暇が定められています。
① 病気休暇
② 労災休暇
③ 女子従業員の特別休暇
④ 慶弔休暇
中国では、従業員は病院から発行される病気休暇証明書を会社に提出することで、病気休暇を取得することができます。この病気休暇は有給と定められており、通常賃金の6割(勤務年数で変動)で計算した賃金を支給しなければなりません。
実際勤務年数 | 当該組織における勤続年数 | 医療期間 |
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10年未満 | 5年未満 | 3ヶ月 |
5年以上 | 6ヶ月 | |
10年以上 | 5年未満 | 6ヶ月 |
5年以上10年未満 | 9ヶ月 | |
10年以上15年未満 | 12ヶ月 | |
15年以上20年未満 | 18ヶ月 | |
20年以上 | 24ヶ月 |
日本 | 中国 | |
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名称 | 私傷病休職 | 病気休暇 |
相違点 | ● 休職期間、休職中の賃金に関しては労働協約・就業規則等によって定められます(× 法律上の義務)。 | ● 病気休暇中は通常賃金の6割で計算した賃金を支給しなければなりません。 ● 休暇期間は従業員の連続勤務年数によって定められています。 |
従業員が、労災又は職業病に罹患した場合、医療機関の診断により休暇が必要とみなされれば労災休暇が取得できます。日数については、被災した日から労働能力鑑定が完了した日まで。給与は1年まで全額が必要となり、1年を超えた場合は、給与支払義務はありません。
日本 | 中国 | |
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名称 | 私傷病休職 | 病気休暇 |
相違点 | ● 労災は「業務災害」と「通勤災害」があります。 ● 日本は労災から給付されます。 |
● 労災休暇中の賃金は、原則、給与の全額を支払わなければなりません。 ● 1年を超えた場合は、給与を支払わなくてもよいとされています。 |
出産する女子従業員には、流産した場合に30日~45日の休暇が与えられます。(地域によって異なります。)
流産の場合
※上海の場合(地方によって異なる)
中国では「賃金支払暫定規定」第11条により婚姻休暇を取得することができるとしています。実務上この婚姻休暇は3日間程度となっています。また、「人口及び計画出産法」第25条において晩婚の場合婚姻休暇を延長することができるとしています。晩婚休暇の日数は各地方の定めによります。
日本 | 中国 | |
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名称 | 慶弔休暇 | 慶弔休暇 |
相違点 | ● 慶弔休暇を設けるか否かは会社の自由です。 ● 労働協約、就業規則等の定めで付与の有無を決めることができます。 |
● 結婚休暇については、休暇を付与しなければなりません。 ● 葬儀休暇については、付与するか否かは会社の自由です(日本と同じ)。 |
中国では、産前15日、産後75日の休暇が与えられます。また帝王切開等の難産、24歳以上の初産の場合、それぞれ15日、30日が追加で付与されます。また日本と異なり育児休業制度がないのが特徴です。
区分 | 中国 | 日本 |
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出産休暇 | 出産前15日 出産後:83日 ※これ以外にも、24歳以上の初出産では30日のプラス、難産の場合には15日プラス、多胎出産の場合には、1人につき15日加算等の規定あり。 |
産前42日、産後56日 |
産休中の賃金 | 産休前と同等の賃金を支払う。 ※生育保険から支払われる。 |
給与の3分の(66%)支給 |
休憩 | 労働時間内に1日60分の授乳休憩を与えなければならない。子供1人につき60分ずつ増加。 | 1日2回それぞれ少なくとも30分 |
育児休業 | 制度なし | 産後57日目から子供が1歳になる日の前日まで(給与の50%支給 + 社会保険料の免除) |
中国の労働契約解除についての原則は、労使が合意した場合に可能というものですが、一定の事由がある場合には一方的に会社が労働契約を解除することができます。その種類により①30日前までに書面での通知又は1ヵ月分の賃金を支払うことによる予告解除②即時解除③その他の事由による解除があります。
予告解除できる場合(労働契約法 第40条)
① 労働者が疾病または業務外の負傷により、規定された医療機関の満了後も元の業務に従事することができず、使用者が別途手配した業務にも従事することが出来ない場合
② 労働者が業務に堪えることができず、研修または職場調整を経た後もなお業務に堪えることができない場合
③ 労働契約の締結時に根拠とした客観的な状況が著しく変化したため、労働契約を履行することができなくなり、使用者と労働者による協議を経ても、労働契約の内容の変更について合意に達しない場合
即時解除できる場合(労働契約法 第39条)
① 試用期間において採用条件に適合しないことが証明されたとき
② 会社の規則制度に重大な違反をしたとき
③ 重大な懈怠、私利のために不正行為があり、使用者に重大な損害を与えた場合
④ 労働者が同時に他の使用者と労働関係を確立し、当該使用者の業務上の任務の完成に重大な影響を与え、又は使用者から是正を求められたがこれを拒否した場合
⑤ 第26条第1項(相手の意思に反する労働契約)に規定する事由により労働契約が無効となった場合
⑥ 法に従い刑事責任を追及された場合
中国では労働契約の解除時、会社側からの提起や会社都合による解除等一定の情況において、経済補償金の支払い義務があります。 経済補償金とは、会社から従業員に提起する労働契約の解除の際、一括で支払う経済上の補助であり従業員の離職後の生活補償としての性質があります。 勤続年数は、累計勤続年数ではなく当該会社のみの年数です。
勤続年数 (累計でなく、当該会社のみ) |
支払基準 |
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6ヶ月未満 | 月額賃金0.5ヶ月分 |
6ヶ月以上1年未満 | 月額賃金1ヶ月分 |
1年 | 月額賃金1ヶ月分/年 |
ケース | 予告期間 | 経済補償金 |
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合意解除 | 双方の協議による | 支払要(会社が提起した場合のみ) |
即時解除 | 不要 | 支払不要 |
30日前間での通知解除 | 必要 | 支払要 |
整理解雇 | 必要 | 支払要 |
退職手続 | 不要 | 支払不要 |
即時解除 | 不要 | 支払要 |
勤続5年のAさん。直前12ヶ月の平均賃金は20万円の場合・・・
20万円 × 5年 = 100万円の支給が必要。
行政から期限を定めて支払いを命令することができる、支払期限を過ぎても経済補償金を支給しない場合、支払うべき金額の50%~100%の賠償金を加算して労働者に支給しなければなりません。