タイの労働法・社会保険・税務について
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タイの個人所得税
国によって個人所得税のルールは様々です。タイの個人所得税、短期滞在者免税(183日ルール)、課税所得の範囲、現地での税金の納付方法、罰則、退職金の取扱いについてご説明いたします。
タイにおける個人税は「所得税」のみとなります。日本における「地方税」のようなものはありません。また、タイの個人所得税は日本同様に累進所得税制を取っており、35%が最大税率となっています。タイでは、日本と同様に給与支払者が源泉徴収し毎月納税します。国内給与と合算して毎月申告し、年に一度個人で確定申告を行うことになります。日本のような年末調整制度はありません。
課税年度 | 暦年(1/1~12/31) |
---|---|
税率 | 累進課税 0%~35%(2012年まで最大37%) |
課税所得の範囲 | タイ国内源泉所得 及び タイ国外源泉所得のうちタイ国内に持込まれたもの |
納税方法 | 給与支払者が源泉徴収し、3月末までに本人が確定申告 |
タイでの居住者、非居住者の範囲は下表のとおりとなります。タイでは同一課税年度(1/1~12/31)に180日以上滞在する場合は、居住者として扱われ、所得税の支払いが必要になります。タイ国内源泉所得、つまりは海外赴任者が日本国内と現地で受け取っている給与の合計に対し課税がなされることになります。
区分 | 定義 | タイ国内源泉所得 例:現地及び日本給与 |
タイ国外源泉所得 例:日本の不動産収入 |
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居住者とは | ① タイ国籍(もしくは永住権)を持ちタイに居住する個人 | 課税 | 非課税 (※タイ国内に持込まれた場合は課税) |
② 上記以外の者であって、タイ滞在が1暦(1/1〜12/31)中に180日以上の個人 | |||
非居住者とは | 外国籍の者で、タイ滞在が180日未満の個人 | 課税※短期滞在者免税により非課税 | 非課税 |
給与に対する課税権は、給与を支払った企業が居住する国ではなく、給与の対価となる役務を提供した国にあります。 つまり出張者とはいえ、その労働がタイ国内で行われているのであれば、出張者の給与の課税権は原則としてタイにあるということになります。
しかし、勤務日数が180日以下等一定の条件を満たした場合は勤務国での課税は免除されるという、各国の租税条約で定められる短期滞在者免税制度というものがあります。 タイの短期滞在者免税適用の要件は以下の3点です。
① 課税年度における滞在日数が180日を超えないこと
② 給与が日本で支払われていること
③ 給与をタイ現地法人が負担していないこと
なお、結果として180日を超えてしまった場合など租税条約の要件を満たさない場合、「日本1日当たりの給与 × 滞在日数」で課税がなされ、確定申告が必要となります。
赴任者の勘違いや知識不足による個人所得税の申告漏れ(過少申告)が散見されます。タイにおける課税所得の範囲は下記のとおりです。タイでは日本とは異なり課税対象となる現物給付が非常に多くなっており、赴任中の一時帰国費用、交通費、医療費なども課税の対象となります。
手当 | 非課税対象となる場合 | 課税対象となる場合 |
---|---|---|
住宅手当 | 従業員負担分に関しては非課税 | ・会社所有の住宅を現物支給する場合(年間給与総額(賞与除く)の20%相当額) ・会社賃借で家賃の実際支払額 |
赴帰任時の引越し費用・一時帰国費用 | 赴任時と帰任時それぞれ一回ずつの旅費に限り非課税 | 赴任中の一時帰国費用は課税の対象 |
日当及び旅費 | タイ国公務員規定の上限まで非課税 | 左を超えた費用は課税の対象 |
教育手当・研修手当・交通費・医療費 | 業務で必要な語学研修は非課税 | 課税対象 |
タイの個人所得税の計算方法は、日本と同様に累進課税方式になっています。
◯ タイの所得税額 = 課税総所得 × 該当所得税率 - 所得税額控除
課税総所得 = 給与・賞与などすべての収入 + 各種課税手当 + 課税現物給与
課税所得 | 税率 | 最大課税額 | 最大累計税額 |
---|---|---|---|
0〜150,000バーツ | 税率免税 | ー | ー |
150,000超〜300,000バーツ | 5% | 7,500バーツ | 7,500バーツ |
300,000超〜500,000バーツ | 10% | 20,000バーツ | 27,500バーツ |
500,000超〜750,000バーツ | 15% | 37,500バーツ | 65,000バーツ |
750,000超〜1,000,000バーツ | 20% | 50,000バーツ | 115,000バーツ |
1,000,000超〜2,000,000バーツ | 25% | 250,000バーツ | 365,000バーツ |
2,000,000超〜4,000,000バーツ | 30% | 600,000バーツ | 965,000バーツ |
4,000,000超バーツ | 35% | ー | ー |
・給与所得控除:所得の40%相当額(最大60,000THBまで)
・納税者本人控除:30,000THB
・配偶者控除:30,000THB(1人/per)
・子供控除:15,000THB(1人/per)(※20歳未満又は25歳以下で就学中の者)
・プロビデントファンド控除:最大500,000THB
<計算例>
◯ 年収800万円(=約220万THB)の人の所得税額
<妻一人・子一人(18歳) / 1THB=3.6円で計算>
・所得控除
{2,200,000THB(年収)- 60,000THB(給与所得控除)- 30,000THB(本人)- 30,000THB
(妻)- 15,000THB(子)}= 2,065,000THB
・累進課税の計算
365,000THB+(2,065,000THB×30%)=984,500THB(約354万円)
※実際の所得税額には上記の通常の給与に加え、「住宅手当」「教育手当」等各種手当にも課税されます。
日本と同様の毎月の源泉徴収と年1回の確定申告制度があります。確定申告に関しては基本的には赴任者自身が行う必要があります、現地の会計事務所に依頼するか、そうでない場合には基本的に赴任者自身で確定申告を行う必要があります。
よくある過失に、タイ払い給与についてはタイで所得申告をしていたが、日本払い給与については、申告が漏れていたというものがあります。日本払い給与は自ら申告しない限り税務当局にはばれないだろうと考える企業もありますが、赴任が終わり帰国する際の確定申告時に発覚することもよくあります。税金の未納に対する罰則は、税務調査により納税不足が発覚した場合に最大で未納額100%分の加算税、無申告である旨発覚した場合には、最大で未納額200%の加算税が課され、これに加え月1.5%の延滞税の支払いが必要になります。
タイ駐在中に日本本社より退職金を受け取ってしまうと、退職金の内、日本勤務時の功労に対する退職金に関しては非課税となりますが、タイ滞在期間中に係る部分はタイでの通常の給与と同様に課税されることとなります。また、非課税としたい金額が日本勤務時の功労に対するものである旨を証明する書類を用意する必要も出てきます。
日本では退職金に対して【税負担軽減】のための制度があるため、タイでの課税額は日本に比べて高額となります。基本的には日本で退職し退職金を受領することがシンプルで確実な方法になります。「原則59歳時点で帰任」など社内ルールを策定するのも一案です。
【退職金の非課税部分】
・日本での勤務期間に相当する退職金(日本国内源泉所得部分)
【退職金の課税部分】
・タイでの勤務期間に相当する退職金(タイ国内源泉所得部分)
・タイに送金された日本国内源泉所得部分