ベトナムの労働法・社会保険・税務について
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ベトナムの労働法
ベトナム現地の労働法概要、労働契約法、有期労働契約の留意点、労働時間制、休暇、就業規則制定のポイント、解雇の制度についてご説明いたします。
前提として、ベトナム労働法は労働者保護の傾向が強く、解雇は簡単には出来ません。また、ブルーカラーのストライキ問題、賃金上昇の問題などがあります。また、ベトナムの労働人口の平均年齢が30歳未満であり、そもそも「管理職」という働き方が定着していないため、赴任者にとっては管理職育成に苦労することが多くなっています。
特徴 背景 | |
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試用期間に解雇が可能祝日が少ない | 日本の労働法との大きな違いは、試用期間が決まっている事とこの間に一方的解雇ができることです。ベトナムは労働者保護の政策がとられているが試用期間中の解雇は自由である。 また、日本に比べて祝日が少ない為に赴任者への説明、手当の設定が必要である。 |
解雇が出来ないので退職勧奨が主流 | 日本と同様に解雇が不自由な国である。 ホワイトカラーについては、解雇ではなく話し合いによる退職(退職勧奨)が有効な手段となる。 |
賃金上昇 | 物価の上昇(上昇率9.2% 2012年)により、賃金の上昇(ベースアップ10%)が顕著である。また、賃金要求の為にストが増加しているのは事実。加えて、労働人口が若いために管理職が不足しているため労務管理が難しい。 |
ベトナムでは、日本と同様、10名以上従業員を雇う場合に就業規則の作成と届出が義務付けられています。また、就業規則はベトナム語もしくは英語で記載します。就業規則の作成の後、労働者代表及び上部労働組合、もしくは基層労働組合に規程を回覧し、「意見書」を受領します。就業規則にこの「意見書」を添付し労働局へ提出をします。
また、賃金テーブル(労働契約の給料交渉および給料支払いの根拠となるもの)の作成は、10名以上、10名未満に関わらず、作成義務があります。(10名以上の場合であっても、労働局に提出する必要はありません。)労働局に提出する必要はありません。
日本と異なるポイントは、「意見書」に“同意の意見”の記載がないと規程が制定できない点です。
◆労働者代表の選出方法
・・・基本的には、管轄の「労働局」の指示によります。実際の提出時は労働局のHPを参照してください。(複数名を選出することが多い様です。)
◆従業員10名未満の企業の場合の就業規則の取り扱い
・・・10名に満たない場合であっても、管轄の労働局に提出することをお勧めします。労働局により、登録できるかどうかが異なりますので、一度実際に提出してみましょう。
(就業規則の提出・登録を行わないと、適正に懲戒処分を行うことが出来ません。)
ベトナムでは、「有期」の雇用が主流となっています。また、有期雇用は一回しか更新できない等、日本における労働契約とは異なる点が多いため留意が必要です。
日本 | ベトナム | ||
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労働契約 | 期間 | ①無期雇用 ②有期雇用(契約期間最長3年) 更新のある場合も最長5年(※) ※以後申し出があれば無期雇用となる |
①無期雇用 ②有期雇用(契約期間36カ月まで) |
更新 | 原則回数に制限なし | 更新は1回まで(※) ※冒頭の①②は除く、以後申し出があれば無期雇用となる |
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契約方法 | 原則、書面による。 | 原則、書面による。 ※3ヶ月未満の労働契約の場合については口頭も認められる。 |
なお、労働契約書における絶対的記載事項は次のようになっております。日本と大きくは異なりませんが、確認しておきましょう。
絶対的記載事項 |
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①会社名・住所 ②労働者氏名・生年月日・性別・身分証番号 ③職務内容・勤務地 ④労働契約期間 ⑤賃金レート・支払時期・支払方法・手当その他 ⑥昇給及び昇進制度 ⑦勤務時間及び休日 ⑧労働者の労働保護器具(業務による) ⑨社会保険及び健康保険 ⑩訓練及びスキルアップ |
社員を採用する際、日本とベトナムと内容が大きく異なる制度が別途記載の「労働契約」と「試用期間」です。日本と異なりベトナムは試用期間中に従業員を一方的に解雇することができます。また、労働契約においては一度しか契約更新ができません。従って、2度目の更新以降は無期契約を結ぶことになります。また、試用期間中の賃金は正規雇用時の賃金の85%以上でなければなりません。
日本 | ベトナム | |||
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試用期間 | 期間 | 通常3〜6ヶ月(判例上、延長をした場合最大12か月まで認められる) | 短大卒以上の技術程度を要する職務に就く者(例:ホワイトカラー) | 60日 |
高専卒以上の技術程度を要する職務に就く者(例:工場のラインリーダー、料理人) | 30日 | |||
その他の者(例:単純作業者、ワーカー) | 6営業日 | |||
解雇 | 困難(正社員よりわずかに容易) | 原則、一方的に契約解除可能 | ||
契約 | 通常、労働契約締結時に試用期間も定める。 | 労働契約とは別途「試用合意書」等により試用契約を締結する。 |
試用期間後本採用を行わない場合は、試用期間終了の3日前までに通知します。
特段定めは無いですが、トラブル防止のため書面で提示することをお勧めします。なお、特段理由等を記載する必要はありません。
※通知後は勤務させる必要はありませんが、給与は控除せず支給する必要があります。
ベトナムの週労働時間の特徴として、所定週労働時間が48時間、時間外労働割増率が高く、週36時間を超える時間外労働に関しては原則全面禁止されています。また祝日は日本より7日少なくなっています。
ベトナムでは、12ヶ月以上勤務した者に、年次有給休暇が12日付与されます。以降は勤続5年毎に1日ずつ増加する。(勤務期間が12ヶ月未満の者は、1ヶ月に1日付与されます。)
ベトナムでは、契約の種類により異なる期間の事前通知をすることにより、その理由に関係なく労働契約を解除することができます。また、法定の解除理由に該当する場合には、事前通知がなくとも、一方的な契約解除が認められます。(労働法第35条)
期間 | |
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a) | 無期限労働契約の場合は少なくとも45日前 |
b) | 満12カ月から36カ月までの労働契約の場合は少なくとも30日前 |
c) | 12カ月以下の労働契約の場合は少なくとも3カ月前 |
d) | 特別な事業に関しての事前通知は政府の規定に従うものとする |
有する権利 | |
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a) | 労働契約で合意した業務や勤務地に配置されていない。または労働条件が補償されていない。但し、同法の第29条に規定のような場合を除く。 |
b) | 労働契約に定めた給与を十分に支給されない。あるいは支給が遅延する。但し、同法97条4項に規定のような場合は除く。 |
c) | 虐待、強制労働をさせられる。 |
d) | セクシャルハラスメント。 |
e) | 妊娠中の女性被雇用者が、認可の受けている医療機関の指示に基づいて、業務を休止しなければならない場合。 |
f) | 被雇用者が法第169条の規定に基づいて定年退職の年齢に関する条件を十分に有する場合。 |
g) | 被雇用者に対して法第16条の規定に基づいて不正確な情報を提供し、労働契約の締結に悪影響を与える場合。 |
ベトナムでは、労働契約の終了事由が労働法36条に定められています。この事由以外では「労働契約を終了する(解雇含む)」ことができません。
※実務的には、解雇等会社都合退職は行わず、≪事由3≫の労使双方の合意による退職が多いようです。現地のコンサルと相談の上、対応することをお勧めします。
ベトナムでは、一定の事由に該当する場合は、解雇手当・失業手当を会社が支払う必要がある旨法律により定められています。日本とは異なり働き口が多く、ベトナム人が日本ほど会社に執着することはあまりありません。よって、事由はどうあれ「退職」は比較的多くなっており、解雇手当・失業手当の要否については確認しておく必要があります。
項目 | 詳細(労働法第48条、49条) | 支払う必要のある事由 |
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解雇手当 | 勤続12ヶ月以上の被雇用者に対し、 勤続1年につき半月分の賃金に相当する解雇手当の支払いが必要 |
前述の労働契約終了事由 1.2.3.5.6.7.9に該当する事由による退職 |
失業手当 | 勤続12ヶ月以上の被雇用者に対し、 勤続1年につき1ヶ月分の賃金に相当する解雇手当の支払いが必要 |
前述の労働契約終了事由 10.の⑤に該当する事由による退職 |
これらの解雇手当・失業手当は、直近6ヶ月の平均賃金により支払われます。また、失業保険に加入していた期間については、当該手当を支払う必要はなく、失業保険はほぼすべての従業員が加入する必要がありますので、結果的に解雇手当・失業手当を会社が払うこととはほぼありません。
なお、会社から一方的な契約解除の場合については次表のとおり、予告期間が設けられています。
無期雇用 | 少なくとも45日前 |
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有期雇用 | 少なくとも30日前 |
季節的労働又は特定業務 | 少なくとも3営業日前 |
ベトナムでは、日本と異なり、労働法上にその処分方法(これ以外は認められない!)と、懲戒処分における手続きが定められています。会社は「懲戒事由」を就業規則に規定することをもって、懲戒処分を行うことができます。この原則に従い、懲戒処分を行うこととなるため、留意が必要です。(方法自体は日本と類似しています。)
懲戒処分 種類(労働法第125条) | 詳細 | |
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1 | 戒告 | 実質は、譴責を行う。(書面をもって戒める) |
2 | 6ヶ月を超えない昇給期間の延長・免職 | 免職は降格のこと。 |
3 | 懲戒解雇 | 実務上は懲戒解雇は避け、合意退職とすることが多い。 |
懲戒処分の手続き 原則(労働法第126条及び第124条) | |
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1 | 従業員の過失立証責任は雇用者が負う |
2 | 基層労働組合(または労働者代表)が懲戒手続きに参加する |
3 | 当該従業員自身へ防護の機会を与える |
4 | 懲戒処分について書面による議事録が作成される |
5 | 複数の処分がある場合は、一番重い処分のみ課される |
6 | 懲戒事由発生から最大6ヶ月以内(秘密保持違反は12ヶ月以内)に課す |
ベトナム労働法には、多くの女性保護規定が存在しますが(労働法第153条~第160条)、産前産後休暇や休憩時間の加算等原則的な規定以外はあまり運用されていないのが実態です。
区分 | 日本※産前産後併せて98日 | ベトナム |
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産前休暇 | 42日 ⇒ 給与の3分の2(66%)を健康保険より支給 |
産前産後併せて最大6ヶ月(180日) (産前は最大2ヶ月) ⇒この6ヶ月間は、給与の100%相当の社会保険給付金が支給される。 ※この期間に勤務するとダブルインカムとなる。 |
産後休暇 | 56日 ⇒給与の3分の2(66%)を健康保険より支給 |
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育児休業 | 産後57日目から子供が1歳になる日の前日まで ⇒給与の50%を雇用保険より支給+社会保険料の免除 |
法律上は規定なし。 会社と同意の上で無給休暇を取得することができる。 ※ホワイトカラーは女性従業員が多く、ポピュラーな制度です。 |
項目 | 詳細 |
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育児中の休憩 | 12ヶ月未満の子を養育する女性労可能働者は、1日60分の休憩を「有給」でとることができる。 (1時間分勤務を短縮させることのも。) |
生理中の休憩 | 生理中、1日30分の休憩を「有給」でとることができる。 |