海外での労働法・社会保険・税務

シンガポールの労働法・社会保険・税務について

多田国際ナビ

シンガポールの労働法

シンガポール現地の雇用法に基づく、労働契約、労働紛争、休日、休暇、時間外労働、休日労働、有給休暇、出産休暇、解雇等についてご説明いたします。

シンガポールにおける労働法の概要

シンガポールは、積極的に外国人労働者を受け入れることで発展してきた国です。近年では、①産業の高度化 ②知識集約型経済への移行を政策の柱としており、ホワイトカラーの外国人労働者が大量に流入しました。一方それに起因して、物価や住宅価値の上昇が起こり、国民からの不満の高まりを受け、政府としても過度な受け入れを抑制する方針になりつつあります。

労働法関連事項

・管轄省庁・・・人材開発省(Ministy Of Manpower)

・労務に関する法律・・・雇用法・定年退職法・職場安全衛生法・外国人労働雇用法・労使関係法 等

シンガポール労働法と適用範囲

シンガポールにも雇用法(Employment Act)と呼ばれる労働法が存在します。 しかし、日本のように労働者全員が適用となるのではなく、適用される労働者が限定されているところが特徴的です。

要件 備考
すべて適用 ◆ 単純労働者
(月収S$4,500以下)
◆ 一般労働者
(月収S$2,500以下)
雇用法の内容がすべて適用となる。
一部適用除外 ◆ 管理職・専門職
(月収S$4,500超
ほとんどの日本人赴任者はここにあたることが多い。
一部適用 ◆一般労働者
(月収S$2,500超)
◆ 単純労働者
(月収S$4,500超)
雇用法“Part Ⅳ”「休日/休日労働割増/有給休暇/病気休暇」等の規定のみ、適用される。
◆ 管理職・専門職
(月収S$4,500以下)
雇用法内の基本保護規定「不当解雇に対する異議申し立て/有給休暇/病気休暇の規定」等が適用される

単純労働者・・・建築労働者・電車やバスの運転手等の肉体労働、単純作業を行う労働者
一般労働者・・・管理職・専門職・単純労働者以外の労働者
管理職・専門職・・・部下を持ち管理する、マネージメント職以上の労働者

労働契約の締結

シンガポールには就業規則の作成義務がないため、基本的に労働条件は“労働契約書”の定めに基づき決定します。その為、個人個人の労働契約書の作成に対しては、かなり詳細に事項を決めていく必要があります。

雇用契約書の位置づけ
シンガポール
(雇用法適用の無い場合)
日本
雇用契約書に明記すべき事項 法的な定めなし あり(就業場所・労働時間・賃金等)
雇用契約書の役割 有給休暇の付与方法、育児休暇の日数等、就業規則で本来定める内容も記載 就業規則を前提として、個人で定める事項の明示
シンガポールにおける雇用契約書への記載事項

主な記載内容
・労働契約締結日
・就業場所
・業務内容
・給与(基本給・各種手当等)
・始業、就業時間
・労働時間
・休憩
・時間外割増
・休日割増
・国民の祝日の扱い
・年次有給休暇
・病気休暇
・育児休暇
・出産休暇
・退職について
・保険            等

上記のように記載事項は多岐にわたり、雇用契約書が5枚以上にわたるケースも少なくありません。

労働者(特に雇用法の適用のない者)にとっては、自分の処遇をすべて決めるものとなりますので、労働者に合わせたものを作成する必要があり、不足や誤り等があると円滑な雇用関係を維持できなくなってしまいます。

契約書の作成に慣れないうちは、内容の過不足が生じないよう、専門業者へ委託をすることをお勧めします。

労働法の定める基準と祝日

シンガポールの労働法は、外資企業を積極的に誘致しようというシンガポールの国策のもと、諸外国に比べ非常に会社側に有利なものとなっています。また、日本でいう「最低賃金」制度はありません。しかし、賃金は労使間の合意により決定される為、賃金水準を参考にする必要はあります。政府及び労使の代表により構成される評議会が作成する賃金ガイドラインに基づいて企業に勧告が行われることもあるので、いたずらに賃金を下げてよいというわけではありません

区分 シンガポール
1日労働時間 8時間まで
週労働時間 44時間まで
(休憩は始業から6時間以内に45分以上付与せねばならない)
休日 1週1日
(週休日と週休日の間は12日以内でなけらばならない)
シンガポールの1年間の祝日数 11日
時間外割増 少なくとも給与のを支給
休日割増 半日から2日分の給与を手当として支給
深夜
備考 ・シンガポールでは労働者の時間外労働は1ヶ月に72時間以内と定められています。
(人事省(MOM)が承諾した場合は延長が認められる場合も)
シンガポールにおける休暇制度

雇用法には年次有給休暇と、病気休暇(シックリーブ)の規定がありますが、どちらも月収4,500S$以上の者には適用されません。一方、出産休暇と育児休暇は年収等による適用除外はなく、だれでも取得可能です。

しかし、雇用法の適用除外となってしまったら、本当に有給休暇を一日ももらえなくなるわけではなく、実務上は有給を付与しています

以下、雇用法に定められた休暇制度になります。

雇用法規程
(適用除外あり)
年次有給休暇 3ヶ月以上勤続で権利発生。ただし月間、又は年間に定められた就業日数の8割以上の勤務が必要。
病気休暇 6ヶ月間以上同じ使用者に雇われている労働者は、1年に14日の病気休暇(入院を要する場合は60日の病気休暇)を取る権利がある。
年次有給休暇の法定付与日数
勤続勤務年数 付与日数 勤続勤務年数 付与日数
1年(12ヶ月) 7日 5年(60ヶ月) 11日
2年(24ヶ月) 8日 6年(72ヶ月) 12日
3年(36ヶ月) 9日 7年(84ヶ月)) 13日
4年(48ヶ月) 10日 8年(96ヶ月) 14日
従業員を解雇する際の制度

日本では、従業員を解雇する際には、少なくとも30日前に予告するか、しない場合には30日以上の平均賃金を支払わなければならないという法制がありますが、シンガポールにも解雇する際の法制度があります。総じて、雇用者有利の制度となっています。

最大の特徴は、解雇予告期間等を守っていれば、解雇に理由は問わないというところです。しかし、不当な解雇に対する異議申し立て制度がありますので、不用意な解雇は避けるべきです。

また、事業縮小等により整理解雇を行う等会社都合での解雇の場合も通常と同様労働者に対して予告期間は必要となり、さらに、解雇手当の支給が必要となります。勤続年数2年以上の者にはこの解雇手当の請求権があります。

シンガポール解雇制度の概要
① 解雇の際、解雇理由は問わない 解雇の手続き自体を守っていれば、解雇の理由は特に問われることなく解雇可能です。
② 雇用契約解除の予告通知 ⇒ 解雇時には、契約解除の旨を労働者に一定期間前に通知する必要があります。
③ 予告通知期間については、基本は契約による ⇒ 契約で定めていない場合には、法定の期間になります。
解雇予告期間分の賃金を払えば解雇可能 ⇒ 予告期間分の賃金を払えば即時解雇が可能となります。
解雇制限もあり ⇒ 以下の解雇は禁じられています。
産前産後休暇中の解雇・労組の結成を理由とする解雇・兵役を理由とする解雇
≪法定解雇予告期間≫
雇用期間 解雇予告期間
26週間未満 1日
26週間以上2年未満 1週間
2年以上5年未満 2週間
5年以上 4週間
労使間の紛争処理

シンガポールは、政府、労働組合、使用者の3者間で労使関係の問題を解決する方法を備えており、労働組合法・労働争議法・労使関係法が労使関係について定めています。しかし、シンガポールは労働争議自体が少なく、日本における争議数の10分の1程度となっている。

紛争解決団体

・全国労働組合会議(NTUC)・・・労働組合を代表。労働者が生涯を通じて働けるようにし、労働者の福祉と地位の向上をめざし活動している。

・シンガポール全国使用者連盟(SNEF)・・・使用者を代表。使用者間の協力により産業間の調和を保ち、労働力における競争力を高め、労働者の生活の質を高める等の活動をしている。

・人材省 (MOM)・・・政府機関を代表し、仲裁。

解決までのステップ

【STEP1】 政労使による協議

【STEP2】 労働協約締結による和解

【STEP3】 労働仲裁裁判所(IAC)への委託

一般的には、話し合いがこじれた場合でもMOMの仲裁までで終了することが多い。

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