海外での労働法・社会保険・税務

シンガポールの労働法・社会保険・税務について

多田国際ナビ

シンガポールの個人所得税

国によって個人所得税のルールは様々です。シンガポールの個人所得税、短期滞在者免税(183日ルール)、課税所得の範囲、現地での税金の納付方法、罰則、退職金の取扱いについてご説明いたします。

シンガポールの個人所得税の概要

シンガポールにおける個人税は「所得税」のみとなります。日本における「地方税」のようなものはありません。
申告は「確定申告制度のみ」となっており、税率も諸外国に比して低くなっています。
また、外国からの企業誘致や外国人労働者の受け入れにより発展してきた国であるため、外国人にも分かりやすい税制度となっています。

シンガポール税制の概要
課税年度 暦年(1/1~12/31)
税率 累進課税 0%~20%
課税所得の範囲 シンガポール国内源泉所得
納税方法 確定申告を行い、税務当局が税額を計算。税額が決定したら、個人で納税
シンガポールの個人所得税の基本

シンガポールでの居住者、非居住者の範囲は下表のとおりとなります。海外赴任者の場合、通常滞在期間が183日以上あり、“居住者”にあたることが殆どのケースです。その場合、シンガポール国内源泉所得、つまりは海外赴任者が日本国内と現地で受け取っている給与の合計については課税されますが、シンガポール国外源泉所得つまりは日本で得ている不動産収入等については非課税となります。また、シンガポールでは赴任した日から同年12/31までの日数が183日以内であっても、翌年の滞在日数を通算して183日以上となる場合は居住者となりますのでご留意ください。

区分 定義 シンガポール国内源泉所得
例:現地及び日本給与
シンガポール国外源泉所得
例:日本での不動産収入
居住者とは ① シンガポール国籍(もしくは永住権)を持ちシンガポールに居住する個人 課税 非課税
② 上記以外の者であって、シンガポール滞在が1暦(1/1〜12/31)において183日以上の個人
非居住者とは ① 外国籍の者で、シンガポール滞在が183日未満の個人 課税(非居住者税率)
※出張者は短期滞在者免税制度【183日ルール】により免税される場合があります。
非課税
② 外国籍の者で、シンガポール滞在が60日以下の個人 免税 非課税
出張者の個人所得税の基本 〜183日ルール〜

給与に対する課税権は、給与を支払った企業が居住する国ではなく、給与の対価となる役務を提供した国にあります。 つまり出張者であっても、その労働がシンガポール国内で行われている場合は、この出張者の給与の課税権は原則としてシンガポールにあるということになります。
しかし、勤務日数が183日以下等一定の条件を満たした場合はシンガポールでの課税は免除されるという制度が、短期滞在者免税という租税条約で定められたルールです。 以下が、このルールの適用要件となります。

短期滞在者免税適用要件

① 滞在日数基準・・・シンガポールでの滞在期間が継続した12ヶ月間を通して合計183日以内であること。

② 支払地基準・・・報酬が、シンガポールの居住者(シンガポールの現地法人等)又はこれに代わるものから支払われていないこと。

③ PE負担基準・・・報酬が、日本企業がシンガポール国内に保有するPE(恒久的施設)に負担されていないこと。

なお、近年出張者の給与について「寄付金課税」がなされるというケースが増えています。どういうケースかというと、通常日本から現地の子会社に出張させる場合、現地の要請に基づき業務を支援する等、本社業務の必要からでない時は、本来は給与だけでなく航空券、ホテル等も子会社で負担すべきものとなります。この経費を本社が負担した時は、子会社に対する寄付金とみなされ、日本本社に日本の当局から寄付金として課税されてしまうものです。

短期滞在者免税の例外

会社役員と芸能活動を行う者等には、183日ルールは適用されず個人所得税の申告・納税義務を負います。非居住者であってもシンガポールにおける所得は全額課税対象となり、シンガポールでの労働に対して日本国内で支払われた給与(もしくは役員報酬)についても納税額を算出して納税しなければなりません。日本とシンガポールの二重課税になりますので日本で確定申告をし、控除を受けます。

ここでいう会社役員とは?

日本本社の社員で、シンガポール現地法人の役員報酬を得ている者

183日を超えた場合は?

183日を超えた段階で納税義務が発生し、183日を超過した日数分だけでなく、これまでのシンガポール滞在日数分の納税が必要となります。なお、所得の申告の必要が必要かどうかは、シンガポール税務当局から申告すべき旨の通達が来るか来ないかです。通達が来たら、納税がなくても所得の申告が必要となります。

個人所得税 課税所得となる手当
手当 非課税対象となる場合 課税対象となる場合
住宅手当
【改訂】
従業員が負担した分に関しては非課税 ・会社所有の住宅を現物支給する場合(住宅の年次価額)
・会社賃借で現物支給する場合(家賃の実際支払額)
⇒()内の金額から従業員が負担した家賃相当額を控除した金額
≪YA2015からかなり税率が増加しました。≫
子女教育手当・研修手当 語学研修等、業務に関連する場合 会社が、子の教育費の全部または一部を会社が負担している場合 ⇒ 支給額全体に課税
ホームリーブ手当 ・赴任者及び配偶者それぞれへ往復渡航費を支給する場合
⇒ 年1回分については往復渡航費の20%相当額、年2回分以降は往復渡航費全額(子女については2回目まで往復渡航費の20%が課税)
交通費 業務に関連した交通費の実費を会社に請求する場合 本人住居から会社までの通勤費を会社が支給する場合
赴任帰任引越し費用 かかった費用を実費で支給する場合 手当として一律で支給する場合【例:帰任手当を日本から帰任前に受け取る場合はシンガポールで課税】
乗用車関係 営業回り等業務で使用の場合 私用走行分(通勤での使用も私用とみなされます)のある場合 ⇒ 一定の計算により算定された金額

赴任者の勘違いや知識不足による個人所得税の申告漏れが散見されます。 シンガポールは課税所得となるもの、ならないものの区別が細かく、国税当局のHPに明確に定められているので、知らなかったでは済まされません。

シンガポール赴任者の個人所得税 計算方法

シンガポールの所得税は確定申告のみです。そのため源泉徴収制度はなく、前年の課税所得を税務当局に申告し納税額が決まり、後で納付する形態となっています。
 •シンガポールの個人所得税計算:(本人の課税総所得-所得控除)×該当所得税率

本人の課税総所得とは

① 給与、賞与等のすべての収入 + ② 各種課税手当 + ③ 課税現物給与

居住者の税率(賦課年度2012年分)※税率は頻繁に更新されますので、最新のものはご確認ください。
課税所得(S$) A(S$) A部分に対する
税額(S$)
Aを超えた分に対する
税率(%)
以上 以下
0 20,000 20,000 0 0
20,001 30,000 20,000 0 2
30,001 40,000 30,000 200 3.5
40,001 80,000 40,000 550 7
80,001 120,000 80,000 3,350 11.5
120,001 160,000 120,000 7,950 15
160,001 200,000 160,000 13,950 17
200,001 320,000 200,000 20,750 18
320,001 320,000 42,350 20
主な所得控除
給与所得控除 55歳未満はS$1,000
配偶者控除 S$2,000
子供扶養控除 S$4,000(一人/per)
教育費控除 最大S$5,500
①本人の職業に関係するセミナー、研修等
②資格取得を目的とするもの
税金の納付方法・罰則
税金 納付方法

シンガポールの納税方法は確定申告方式です。日本のように毎月の給与から源泉徴収する必要はなく、前年の所得額を申告し税額の通知を受け、その税額を納税します。近年は、日本同様電子申請が主流です。 また、最大12ヶ月の分割も可能です。

【税金 罰則】

納税に関しては、誤った申告・遅延等は個人の責任です。しかし最終的に罰金は会社が負担することになることも多いので会社からもしっかり指示・通知・監査を行いましょう。よくあるのは①納税遅延②過少申請となっています。

① 納付期限までに納付しない場合、初回の督促状の際に5%の延滞税が課せられ、その督促状より90日後に追加の1%延滞税が課せられる。その後1%の延滞税は最大で12ヶ月まで毎月課せられる。

② シンガポールのおいて誤った申告を行った場合は、過少額の100%から400%の加算金が課され、さらに罰金と禁固刑が課される場合もある。

シンガポールで退職した場合 退職金の取り扱い

シンガポールで退職を迎える社員がいる場合の課税処理については、CPF(シンガポールの社会保障制度)脱退時に受け取る脱退一時金や解雇に伴い支給される一時金は非課税になりますが、それ以外の退職に起因して受け取る所得について特別の規定はありません。
つまり、シンガポール赴任者が日本から退職金を受け取った場合、この退職金についてはシンガポール勤務期間に相当する部分について、シンガポールで申告・納税義務が生じます。

シンガポール勤務期間分に対する退職金額が明確になっていない場合、全額に課税される可能性もあります!!
⇒ 定年前には帰任させる等の社内運用ルールを作成することをお勧めします。

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